生物工学会誌 第95巻9号掲載
浅田 雅宣

生物工学会の会員の専門分野は、私が会員になった醗酵工学会であったころから比べると非常に広がっており、会員数も増え、学会としては発展してきています。そこで複数の企業で研究を行ってきて大学に移った経験を踏まえて、学会のさらなる活性化と学術研究レベルの向上に関する私案を述べたいと思います。

総務省統計局の平成28年科学技術研究調査結果によると、2016(平成28)年3月31日現在の我が国の研究者(企業、非営利団体・公的機関および大学などの研究者の合計)は、84万7,100人であり、そのうち企業の研究者は50万6,134人で、約6割を占めています。企業の研究費は13兆6,857億円、大学などは3兆6,439億円、非営利団体・公的機関は1兆6,095億円となっています。すなわち、企業は研究に膨大なお金と人員を費やしており、実用化に向けた研究だけではなく、基礎的な研究でも非常に優れた多くの知見を有しています。もちろん、一口に企業と言っても、その規模やカバーする分野によって研究内容は多様であり、人員やデータの蓄積量も異なります。

私は、大学院時代には、企業は応用と商品開発研究を行い、大学は基礎から広範な研究を行っていると思っていました。しかし、実際に企業の研究所に入ると、実用化するために多くの基礎的な研究がなされていることに驚いたものです。企業が得意としている分野における研究手法や商品化に関しては、独特の技術やノウハウが蓄積されています。企業は発表するために研究をすることはなく、何らかのアウトプットを目的としていますが、その過程で多くの知見を得ています。企業には、企業秘密という囲いがあり、実用化したものを守らなければならないため、それに関連したキーとなる研究成果は一部しか発表していません。その他にもビジネスにつながらなかった研究が多くあり、特許以外には公表されず死蔵されているため、学会においても社会においても知られていないのが実情です。それらには、まったくの新分野であったり、既知のものや大学で研究されているものよりも数値的には上回っているものもありますが、大学や公的機関ではそれらを目にすることがないため、自分達のデータが一番と思っている時もあります。そこで提案です。企業としては、ビジネスにつながらなかった研究データの発表にお金もマンパワーも使いたくないというのが本音ではありますが、まずは死蔵データでも個々のデータが優れているものは、企業の研究レベルの高さを示す良い機会であるので、発表を促したいと思います。それだけでもかなりの数になります。

こうした発表は、携わった企業研究者の張り合いになりますし、交流会の話題にもなり、人脈を広げるきっかけになります。企業の高いレベルのデータが発表されれば、大学や公的研究機関の研究者にとっても刺激となり、新たなアイデアや共同研究の機会を生み、その分野全体の底上げにつながり、まさしくオープンイノベーションとしてより大きな発展をもたらすと思われます。

大学生、特に大学院生には、企業における研究者の仕事にも目を向けて欲しいし、圧倒的に多くの先輩たちは企業や民間研究機関で仕事をしており、そのレベルの高さを知って欲しいと思います。生物工学分野は、基礎研究だけでなく、応用あるいは商品化研究に特徴があり、学会を介して大学と企業の交流がより盛んになることで両者のさらなる発展が見込まれます。発表数が増えるということは、会員数も増えるということになり、学会が活性化し、価値を生み出す媒体としての意義が一層高まることになります。本学会の40%が企業の会員ということですが、研究者数からするともっと企業の会員が増える余地があります。学会としては、会員のメリットになる色々な企画をされていますが、企業に過去の研究データも含めて発表するように促す取組みもしてみてはどうでしょうか。


著者紹介 甲子園短期大学(特任教授)