Published by 若手会 on 20 8月 2018

第4回電子討論会「研究における事故」 – 発ガン性物質の取扱い

エチジウムブロマイド、ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸などの物質は強い発ガン性があり、こぼして放置すれば、例え微量であっても本人はもちろん、関係者全員を長期に渡って危険にさらすことになる。こぼした場合の検出が難しいため、アイソトープよりも危険だと考えるべきである(エチジウムブロマイドは紫外線を当てれば検出できる)。使用する場合は例えば以下のようにアイソトープと同様に(アイソトープ以上に)細心の注意が必要である。また、こぼした場合の対処方法や廃棄する場合の処理方法を熟知していなければならない。なお、使用する試薬、実験目的によって使用手順は異なるので、必ず教官の指導の元で実験を行うこと。

  1. 必ず手袋を着用する。決して素手で扱ってはならない。なお、使用した手袋は汚染しているものとして取扱い、手袋をしたまま不用意に物品に触ってはならない。
     
  2. 作業する実験台には十分な大きさのポリエチレンコートされた濾紙などをひく。
     
  3. 秤量の際は微量でもこぼさないように細心の注意を払う。
     
  4. もし微量でもこぼしたら教官に報告し、直ちに適正かつ十分な中和処理を行うこと。
     
  5. 試薬瓶は新しい透明な袋に入れて口を閉じて保管する。
     
  6. 試薬が入っていた古い袋は(8)に示す方法で廃棄する。
     
  7. 使用した全ての器具(試験管などの容器、チップ、薬さじ、薬包紙)について必ず中和処理を行うこと。
     
  8. 使用した手袋、下にひいた濾紙、試薬を入れていた袋などは人が(関係者だけでなく廃棄業者も含めて)触れることがないようにして廃棄する。例えば手袋をしたまま廃棄したい袋をつかみ、それを包み込むように裏返しに手袋を脱ぎ、口を縛る。さらにこれを別の袋に入れ、口を縛って廃棄する。この際、中にチップなどの先のとがった袋を破る可能性のある物を入れてはならない。チップ類は別途中和処理を行って廃棄する。

►第4回電子討論会「研究における事故」トップへ

Published by 若手会 on 20 8月 2018

第4回電子討論会「研究における事故」 – 試薬

  • 危険物(火薬)に相当する粉末の反応性を向上させようという目的で、微粉末化を試みた。最初は、超音波ふるい機にておこなったが、静電気発生により粒子がだまになる傾向があったため、ドラフトで乳鉢を使って「手摺り」で粉砕することにした。乳鉢は充分な大きさのものがなく、手短にあった小さいもので、擦ると縁からこぼれかけるような量を「素手」で扱った。ドラフトは防爆型でガラスを閉められるタイプのものであった。しかし、手とうでの一部は素手のままドラフトの中にはいっており、微粉末は静電気を帯びていたためか、あるいは安全量を超えていたかは定かでないが、扱っている本人の意表をついて一瞬にして反応を起こし、乳鉢と乳棒はこなごな。乳棒を支えていた本人の指ならびに眼鏡も一部爆風で吹き飛んだ。就業時間後のことであり、処置が少々遅れた。入院 1 ヶ月半、全治 3 ヶ月。指はもとにもどらず。

(教訓)危険物の知識をもっていても、安全には念をいれて慎重に扱いましょう。大学の研究室も安全教育についての講座は設けていないところが多いですから。その延長で、職場でやられると、労災適用で職場の安全信頼性が低下するので困ります。

  • 某企業の研究所に入りたてのとき試薬棚の整理を任されました。その棚の奥に、かなり昔のしかも未開封の五酸化二リンがあり、それを開封して中身を見ようとしたときにこぼしてしまいました。それを拾ってごみ箱に捨てたところ、いきなり煙が出てきました。さらにたちの悪いことに燃え始めたと思い、水を入れたところすごい音を立てはじめ、実験室をパニックに陥れてしまいました。結局、乾いたガラスのビーカに移し、外に持っていき研究所の裏の土の中に埋めまして一件落着となりました。五酸化二リンは水と反応することを知らない故におきた事故でした。
     
  • 昔々、大掃除の時、ホコリをかぶった古いデシケーターを学生さんが流しで洗おうとしていました。まさに蛇口をひねろうとしている時に気付いて大声で止めました。デシケーターの内容物(白い粉末で表面は溶けている)を少量スパテラで取って水につけたら激しく反応しました。デシケーターの乾燥剤(五酸化二リン、生石灰、濃硫酸etc.)は水と激しく反応します。シリカゲルでさえ水をかけると弾けて危険です。
     
  • 過酸化水素水を密栓して冷蔵庫に保存していたところ、容器が爆発して過酸化水素水が周囲に撒き散らされた。
    過酸化水素の容器は小さな穴が開いていますね。安全対策のため必須なんでしょうが、家庭用オキシフルのフタには穴がありません(と思う・・)。30%の試薬は危なくて、3%(多分)の家庭用なら大丈夫なんでしょうか??。3%でも500mLの過酸化水素から約5L の酸素が出ますが・・・。
     
  • プラスミド精製で共通の超遠心機を使おうとしたところ、シーラーやキャップの所々に赤っぽいものがついていました。UVランプで照らして見ると遠心機のチャンバーも含めてそこら中エチブロで汚染していました。ハンディのUVランプを学科の共通費で購入して遠心機の横に常備し、使用前後の汚染検査と、汚染発見時の教官への報告を義務付けました。
     
  • 「私はエチブロを触って癌になりました」という話を聞きませんし、「痛い話」でもないので迫力に欠けますが、安全教育の参考になるかと思いましたので投稿します。エチジウムブロマイドを漂白剤で処理して捨てるという指導がかなり多いと思いますが、漂白剤による分解産物はエチジウムブロマイドよりもさらに「変異原性」が高いという報告があります(Trends Biochem Sci 1994 Jun;19(6): 257-258)。
     
  • 第1回の電子討論会でも話題になりましたね([btf 1026] あたりをご参照下さい)。その後、私の専攻では他の先生方と話し合って、

Molecular Cloning 第2版 E8に記載されている過マンガン酸カリウムなどによる酸化処理も完全ではない。そこで、ゲル染色液などの希薄な溶液、平衡密度勾配遠心に用いた濃厚な溶液は、共に含ハロゲン廃液として専門業者に処理を委託するのが最も無難だと思われる。なお、希薄な廃液の場合、活性炭あるいはAmberlite XAD-16に吸着させて処理する方法(Molecular Cloning 第2版 E9 参照)もあるが、使用した活性炭、Amberlite XAD-16を適切に処分しなければならない。

と言うことにしています。また、以下のように指導しています。

  • エチジウムブロマイドについては、処理方法もさることながら秤量の方法も問題になります。粉末の場合は誤って吸入してしまうことのないように注意が必要です。
    酵素標識抗体法の基質に使うDABについても発がん性が指摘されていますが、最近では便利で安全な錠剤タイプのエチジウムブロマイドやDABが市販されています。うちは秤量してくれる人がいるからと言って、ドラフトも使わずにDABを秤量させる人がいるようなのでちょっと怖いですね。エチジウムブロマイドや DAB 廃液処理用のフィルタも雑誌広告などでよく目にします。
    いずれも高価につくのかも知れませんが、安全と引き換えと考えればこういった便利なものを使用するのも手かも知れません。
     
  • 吸入するとコワイといえば。SDSなども、粉末を吸入すると難治性の気管支炎などになるとの話がありますが、あまり気にしないで盛大に舞上げながら秤量する人もいたりしますね。パラホルムアルデヒドの粉末や、酢酸ウランの粉末も同様。別のラボに遊びに行って気になったのが、ベリリウム。無知なのか、お茶してる人達の横で平気でバリバリ秤量。さすがに後で気になったのでヤンワリと指摘すると、「え、毒だったの!」
     
  • それは私です^^; SD Sを秤量している最中に鼻血が出ました。
     
  • 私も SDS の秤量の際、あまり気にしないでスパテルも使わないでポリの試薬びんから量り取っていました。今になって思えば、結構咳き込むときに止まらなくなったりするのはそのせいかもしれません。SDS-PAGE を日常的にやっていた関係で、アクリルアミド毒にやられたらしく、左手の親指の表側の感覚がちょっと鈍くなってしまいました。
     
  • フッ化水素酸でガラスを溶かしていて、誤って自分の手にかけてしまった。
     
  • ファルコンチューブでフェノールの水和をしていたところ、チューブが壊れ、着衣の上からフェノールを被ってしまった。
     
  • フェノール抽出の時、ボルテックスで攪拌したらフタがはずれ、飛び散ったフェノールで火傷を負った。幸い軽傷で済みましたが、目に入っていれば失明していたかも知れません。ボルテックス使用時は保護メガネを着用しましょう。特に、フェノール抽出時は手袋も着用しましょう。
     
  • 当時学部生だった私は、電気泳動用のゲルを作っている先輩の横で、フェノール溶液を使っていました。パスツールピペットでフェノール溶液を吸い込み、勢いよく試薬瓶から抜き出したところ、パキッとパスツールピペットの先が折れてしまいました。「しまった」と思うのと横の先輩が「い、痛い」と言うのが同時でした。そうです、ゲルの状態を見るため実験台と同じ高さに目線をおいていた先輩の顔にフェノールをかけてしまったのでした。保護メガネを着用していなかったので一歩間違うと非常に危険な状態でした。顔に黒っぽい火傷のような痕がしばらくついていましたが、数週間後に顔を洗っているときにポロッとはげ落ち、その下は綺麗に再生していました。それ以来、私は保護具着用に異常なくらいこだわっています(K 先輩、ご免なさい)。危険物を使用するときには必ず保護具はつける、また危険物を使っている横での作業は十分気をつけるましょう。
     
  • 某大学の化学実験でのことですが、ある学生さんが目にアルカリ、(たぶん1M 程度の NaOH)を入れてしまいました。安全メガネをしていなかったのも問題ですが、その後、急いで目の洗浄機(よく小学校のプールについているもの)で目を思いっきり洗浄した後、病院に行きましたら、網膜が剥離していたそうで、数週間、入院したそうです。洗浄機を使っていなかったら、どうなったかは定かではありませんが、目に何か入った場合は、洗面器様なものに水をため、目をパチクリが基本の様です。
     
  • あと、他大学でもあるかと思いますが、液体窒素でものを凍らせるとき、軍手をし、物をもっていましたら、ひどい凍傷になった例があります。本人曰わく、少し我慢していたら痛くなくなったそうです。液体窒素をはじく手袋を付けるか、あるいはまだ素手のほうがましだったかもしれませんが、わたしは、-80℃の冷凍庫で固めるのが安全な様な気がします。
     
  • 他大学に移動された先生の廃液を院生と共に処分していて(誰もやらないのでボランティアでやったのですが)、ドラフト内で廃液タンクに廃液を移していたら突然、発熱し気泡まで出てきて、あわゆく爆発か突沸かと言う感じになりました。院生は避難させ、自分は廃液タンクの外側から水をかけて冷却し何とか事なきを得ました。翌日、タンクの中身は固体になっていました。廃液の成分表示がおおざっぱであったことと微量成分は全く不明であったことが原因です。正体不明の廃液などの取り扱いは、要注意です。(当たり前のことですが……)

►第4回電子討論会「研究における事故」トップへ

Published by 若手会 on 30 7月 2008

第4回電子討論会「研究における事故」

人間は他の動物と同様に、基本的には痛い目にあわないと学習しない動物です。しかし、動物とは異なり、人が痛い目に会ったのを見聞きしても学習することができます。皆さんは安全に実験を行うために色々な工夫をされていることと思いますが、研究をより安全に行い、安全な研究を指導するためには、事故の事例をより多く知ることも大切だと思います。

日本生物工学会の「生物工学若手研究者の集い」(通称:若手会)が主催するバイオテクノロジーフォーラム(BTF)では、研究における事故、あるいは事故に至らないまでもヒヤッとしたりハッとした事例について電子討論会を行いました。以下はフォーラムに寄せられた内容を、分類して編集(ほぼ原文のまま)したものです。

内容は、BTF 会員の自由な討論に基づくものであり、不適切なもの、不確実なものが含まれることをご了解の上でご覧下さい。

ご意見、ご批判がございましたら世話人の片倉()までお寄せ下さい。また、他の事故事例をこのHPに紹介して頂ける方も片倉宛メールをお願いします。


►若手会Topへ