Published by 学会事務局 on 01 6月 2016

研究部会 – 過去の研究部会一覧

部会名活動年度
非線形バイオシステム研究部会2020–2024
脂質駆動学術産業創生研究部会
[前身:脂質工学研究部会(2002年–2009年)
学際的脂質創生研究部会(2010年–2018年)
脂質駆動学術産業創生研究部会(2019年–2024年)]
2019–2024
バイオインフォマティクス相談部会2017–2024
次世代植物バイオ研究部会2014–2024
サスティナブル工学研究部会
[前身:バイオマス研究部会(2004年–2016年)]
2017–2021
バイオインターフェイス研究部会2013–2021
学際的脂質創生研究部会
[前身:脂質工学研究部会(2002年–2009年)]
2010–2018
超臨界流体バイオテクノロジー研究部会 2009–2017
セルプロセッシング計測評価研究部会
[前身:セル&ティッシュエンジニアリング研究部会(2000年–2008年)]
2009–2017
光合成微生物研究部会1996–2017
メタルバイオテクノロジー研究部会2007–2016
バイオマス循環利用研究部会2004–2016
コンビナトリアル・バイオ工学研究部会2001–2016
合成生物学研究部会2013–2016
微生物共生活用発酵工学研究部会
[前身:微生物の寄生・共生から探る伝統醸造の深淵研究部会(2010年)]
2011–2015
スローフード微生物工学研究部会2003–2015
有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会2009–2012
システムバイオテクノロジー研究部会2008–2012
乳酸菌・腸内細菌工学研究部会
[前身:乳酸菌工学研究部会(1995年–2006年)]
2007–2011
IT駆動型微生物学研究部会2005–2008

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 19 8月 2011

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(中島 一紀)

氏名 中島 一紀
所属 東北大学大学院工学研究科化学工学専攻
ウェブサイト http://www.che.tohoku.ac.jp/~rpel/

研究紹介

水でも有機溶媒でもない第3の溶媒「イオン液体」が新たな生体触媒の反応場として注目されている。イオン液体は室温で液体として存在する塩の総称であり、カチオン、アニオンの組み合わせを変えることで、様々な種類のイオン液体を得ることができる。イオン液体をバイオプロセスに用いた場合、イオン液体は(A)極性溶媒であるため、糖やアミノ酸といった極性の生体関連化合物を容易に溶解することができ(water-like)、一方で(B)非水溶媒であるため、酵素的合成反応が可能であり(organic solvent-like)、さらに(C)不揮発性であるため、それを利用した新たな非水系バイオプロセスを構築できる(salt-like)、といった反応溶媒としての特異性を示す。

中島研究紹介図(イオン液体の特徴とバイオプロセスへの応用)
イオン液体の特徴とバイオプロセスへの応用

 

塩のみから構成されるイオン液体中においても様々な生体触媒(リパーゼ、プロテアーゼ、ペルオキシダーゼ、whole-cell biocatalyst)がその機能を発現することが報告されているが、その触媒活性は水溶液中と比べると非常に低い。本研究ではイオン液体中での酵素活性の向上を目指し、酵素のイオン液体への可溶化を試みた。酵素可溶化のアプローチとして酵素への化学修飾(共有結合的修飾)を検討し、くし型のPEGを酵素の修飾剤として用いた。このくし型PEG(PM13)は主鎖に酵素との結合点を有し、複数本のグラフト状PEG鎖をもつ。これを修飾剤として用いると、直鎖状PEGよりも多量のPEG鎖をタンパク質表面に修飾できる。

モデル酵素としてスブチリシン(プロテアーゼ)を用いてPM13の化学修飾を行ったところ、PM13修飾スブチリシン(PM13-Sub)はイオン液体に均一に可溶化することが明らかとなった。酵素表面をイオン液体への溶解性が高いPEGが多量に酵素表面を被覆しているため可溶化できたと思われる。

さらに、酵素活性を調査したところ、未修飾の凍結乾燥酵素では全く反応が進行しなかったのに対し、可溶化したPM13-Subは極めて高い触媒活性を示した。つまり、酵素の溶解性がイオン液体中での高活性発現のための重要なファクターであることが示された。

さらに、PM13-Subの触媒活性は一般有機溶媒よりもイオン液体中の方が高かった。イオン液体中での酵素反応は、水を全く添加しない非水系反応であるため効率的な合成反応・エステル交換反応が可能であり、また有機溶媒に溶解しない極性化合物を基質として用いることができる新たな生体触媒反応系である。
 

 中島研究紹介図(タンパク質へのくし型PEGの化学修飾とイオン液体への可溶化)
タンパク質へのくし型PEGの化学修飾とイオン液体への可溶化

 

発表論文

  • K. Nakashima, K. Yamaguchi, N. Taniguchi, S. Arai, R. Yamada, S. Katahira, N. Ishida, H. Takahashi, C. Ogino, A. Kondo, “Direct Bioethanol Production from Cellulose by the Combination of Cellulase displaying Yeast and Ionic Liquid Pretreatment” Green Chem. (2011) in press.
  • S. Arai, K. Nakashima, T. Tanino, C. Ogino, A. Kondo, H. Fukuda, “Production of Biodiesel Fuel from Soybean Oil Catalyzed by Fungus Whole-cell Biocatalysts in Ionic Liquids” Enz. Microb. Technol., 46 (1), 51-55 (2010).
  • K. Nakashima, N. Kamiya, D. Koda, T. Maruyama, M. Goto, “Enzyme Encapsulation in Microparticles Composed of Polymerized Ionic Liquids for Highly Active and Reusable Biocatalysts” Org. Biomol. Chem., 7 (11), 2353-2358 (2009).
  • N. Kamiya, Y. Matsushita, M. Hanaki, K. Nakashima, M. Narita, M. Goto, H. Takahashi, “Enzymatic in situ Saccharification of Cellulose in Aqueous-Ionic Liquid Media” Biotechnol. Lett., 30, 1037-1040 (2008).
  • 中島一紀,神谷典穂,後藤雅宏,「新たな非水溶媒イオン液体中での酵素反応」,月刊バイオインダストリー,第25巻(7号),24-34(2008)
  • K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, “Spectrophotometric Assay for Protease Activity in Ionic Liquids Using Chromogenic Substrates” Anal. Biochem., 374, 285-290 (2008).
  • 中島一紀,後藤雅宏,「生体触媒の新しい反応場としてのイオン液体 -水中から有機溶媒へ、そして今イオン液体へ-」化学工学,Vol.70,No.2,111–113(2006)
  • K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, “Homogeneous Enzymatic Reaction in Ionic Liquids with Poly(ethylene glycol)-Modified Subtilisin.” Org. Biomol. Chem., 4, 3462-3467 (2006).
  • K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, “Comb-Shaped Poly(ethylene glycol)-Modified Subtilisin Carlsberg is Soluble and Highly Active in Ionic Liquids.” Chem. Commun., 4297-4299 (2005).
     

 

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Published by 学会事務局 on 20 5月 2011

【研究部会】 有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会「第2回シンポジウム」

日時 2011年7月13日(水) 13:30~
場所 京都テルサ(JR京都駅より徒歩15分) 第1会議室
参加費 シンポジウム: 無料 
懇親会: 3,000円 ⇒ 2,000円 (税込・学生無料)
懇親会費は当日お申し受けいたします。
申込方法 氏名・所属・一般/学生の別・連絡先メールアドレス・懇親会参加の有無をE-mailにて、下記のアドレスへご連絡ください。
※お申込みいただいた個人情報は,参加確認および今後のシンポジウムご案内以外の目的には使用いたしません。
問合せ・申込先 大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻(担当:本田孝祐)
TEL. 06-6879-7438 FAX. 06-6879-7439 
E-mail: ostmeng2011@bio.eng.osaka-u.ac.jp
(@を半角に直してからご送付ください。)

プログラム

  • 13:30~13:05  はじめに ……… 加藤 純一(広島大院・先端科学)
     
  • 13:35~14:10  有機溶媒耐性酵素
                …… 荻野 博康(大阪府大院・工)
     
  • 14:10~14:45  転写因子の改変による有機溶媒耐性酵母の分子育種と耐性機構の解析
                …… 黒田 浩一(京大院・農)
     
  • 14:45~15:20  有機溶媒耐性Kocuria rhizophila DC2201を用いた
                                     非水系反応場における化学品生産

                ……  松山 彰収(ダイセル化学工業)
     
  • 15:20~15:55  Rhodococcus opacusを用いた微生物脱硫触媒の開発 
                …… 川口 秀夫(東大院・工)
     
  • 15:55~16:30  耐熱性酵素を用いたグルコースからのエタノール産生
                …… 岩田 英之鹿島 康浩奥 崇(耐熱性酵素研究所)
     
  • 16:30~16:35  おわりに …… 本田 孝祐(阪大院・工)
     
  • 17:00~      懇親会(京都テルサ内 レストラン朱雀)

 

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 11 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会- 構成員研究紹介(大竹 久夫・本田 孝祐)

Rhodococcus opacus B-4株-本田・大竹研究紹介図

氏名 大竹 久夫・本田 孝祐
所属 大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻
ウェブサイト http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/be/
研究テーマ 疎水性細菌を用いた非水バイオプロセスへの挑戦

pdf研究内容紹介PDFはこちら

疎水性細菌Rhodococcus opacus

Rhodococcus opacus B-4株は、水・有機溶媒混合液中で有機相に吸着したり、湿潤状態で有機溶媒に分散したりといった特性を有する「疎水性」細菌として特徴づけられる。この特徴により、本菌は有機溶媒を含む反応液中において、難水溶性基質への高い接触・取り込み効率を有すると考えられる。われわれのグループでは、この仮説を実証するとともにR. opacus B-4を触媒とした非水環境下での各種難水溶性化合物の微生物変換に挑んでいる。

水/有機溶媒混合液中における各種菌体の挙動-本田・大竹研究紹介図

水/有機溶媒混合液中における各種菌体の挙動
左から順に、R. opacus B-4、 R. erythro-polis PR4、P. putida T-57、 E. coli JM109 

水/有機溶媒二相反応系内での芳香族水酸化反応の実施

 大腸菌、R. opacusのそれぞれにPseudomonas putida 由来トルエンジオキシゲナーゼを発現させ、二相反応系内にて側鎖炭素鎖長の異なる一連のアルキル化ベンゼンの水酸化反応を実施した。また、反応液中の水・有機溶媒比を変化させた反応液を用意し、1)基質の水溶度、2)有機溶媒体積比が反応収率に及ぼす影響を調査した。大腸菌を宿主とした場合、基質の水溶度が低下するにつれ、収率が顕著に低下したのに対し、R. opacus ではほぼ一定の収率が得られた。R. opacus は有機相中に溶解する基質を積極的に取り込めるため基質の水相への分配比に影響を受けづらいためと考えられる。

本田・大竹研究紹介図

水・有機溶媒二相反応系内での各種アルキル化ベンゼン水酸化反応-本田・大竹研究紹介図

水・有機溶媒二相反応系内での各種アルキル化ベンゼン水酸化反応
有機相としてオレイルアルコールを使用した

 

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 一方、反応液の水・有機溶媒比率が収率に及ぼす影響については、次のように説明できる。有機溶媒の体積比が減少すれば、基質の水・有機溶媒相間の濃度差は大きくなる。この濃度差は基質の水相への分配のドライビングフォースとなることから、 大腸菌にとっては水相への基質の分配が大きい系、すなわち有機溶媒比が小さい系において反応が良好に進行したと考えられる。対照的にR. opacus は有機相中から基質を取り込むことが可能であるため、水・有機溶媒相の比界面積が最大となる系において最大収率を示したと考えられる。
なお、本反応系は現在5-Lジャーファーメンタースケールにまでスケールアップされており、sec-ブチルベンゼンを基質とした水酸化反応において初発濃度5 g/L(水相を含む総体積に対する濃度)の基質を85%以上のモル収率で水酸化することができている。  

本田・大竹研究紹介図

等量の水・有機溶媒混合液中にR. opacus B-4を分散させると、安定なwater-in-oil エマルジョンが得られる(左)
水・有機溶媒・菌体のそれぞれを蛍光染色して顕微鏡観察すると水・有機溶媒の界面に菌体が集中している様子が見て取れる(右) 

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非水環境下での微生物反応の実現

非水環境下での微生物反応の実現-本田・大竹・研究紹介図6

冒頭にも記したとおり、R. opacus B-4株は、湿潤状態で有機溶媒に分散することが可能である。この特性がいかにユニークなものであるか、皆さんの研究室で保存されている微生物菌体を有機溶媒に懸濁することに挑戦していただきたい。

ほとんどの微生物は、溶媒と混ざり合うことなく、容器の内壁にへばりつくことになるだろう。本菌のこのような特徴を活用することにより、二相系反応からさらに歩を進めた「有機溶媒一相系」での反応も実施可能である。もちろん湿潤菌体の大部分(約80%)は水であり、厳密にいえば「極めて水の少ない二相系」と呼ぶべき反応形態かもしれないが、有機溶媒中に直接菌体を分散させ反応を行うことにより、基質と微生物の接触効率を高められるほか、生産物の分離ステップの簡略化や反応液体積の縮小といったメリットが付与できる。

                   有機溶媒中に分散させた
R. opacus B-4(左)およびE. coli JM109(右)

本田・大竹研究紹介図 

好熱性細菌Thermus thermophilus HB27株由来の耐熱・耐有機溶媒アルコールデヒドロゲナーゼ(TtADH)を過剰発現させたR. opacusを用い、有機溶媒中での芳香族ケトンの立体選択的還元反応に取り組んだ。反応は50~80℃程度の高温で行われ、この温度でR. opacusは生理活性を失うが、有機溶媒への親和性に変化は見られなかった。その一方で、高温での処理を施すことによって反応効率の著しい増大が認められた。これは熱処理により菌体の膜構造が脆弱化し、基質の透過性が向上したためと考えられるが、この場合も目的の酵素は菌体内に保持され続けていた。

 

生産実験は、目的反応であるフッ化アセトフェノンの立体選択的還元を触媒するTtADH1、および本反応により消費されるNADHの再生用酵素としてシクロヘキサノールの酸化反応を触媒するTtADH2を共発現させたR. opacus B-4を用いて実施した。湿菌体を等モルのフッ化アセトフェノン、シクロヘキサノール混合液中に直接懸濁し、マグネチックスターラーによる撹拌のもと70℃にて反応を行った結果、収率約70%、最終生産物濃度510 g/lという高い生産性を達成することができた。

 

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主な成果発表

【原著論文】

  • Yamashita S, Satoi M, Iwasa Y, Honda K, Sameshima Y, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2007) Appl Microbiol Biotechnol 74: 761-767
  • Honda K, Yamashita S, Nakagawa H, Sameshima Y, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2008) Appl Microbiol Biotechnol 78: 767-773
  • Sameshima Y, Honda K, Kato J, Omasa T, Ohtake H (2008) J Biosci Bioeng 106: 199-203
  • Hamada T, Sameshima Y, Honda K, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2008) J Biosci Bioeng 106: 357-362
  • Hamada T, Maeda Y, Matsuda H, Sameshima Y, Honda K, Omasa T, Kato J, Ohtake H (2009) J Biosci Bioeng 108:116-120

【学会発表・シンポジウム講演予定】

  • 本田孝祐大竹久夫疎水性細菌を活用した非水バイオプロセスへの挑戦
     (社)日本生物工学会 有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 
       平成21年度シンポジウム 平成22年3月26日 (東京)
     
  • 大竹久夫本田孝祐、大政健史、奥 崇、岩田英之、 黒田章夫 …生体触媒利用技術の無駄が徹底的に省ける新技術の開発 化学工学会 第75年会 平成22年3月18-20日(鹿児島)
     
  • Ohtake H, Honda K …Development of simple ECO process as a new bio-based production platform 14th International Biotechnology Symposium and Exhibition, 15-19 Sep 2010 (Rimini, Italy)

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(堀 克敏)

氏名 堀 克敏
所属 名古屋工業大学 大学院工学研究科 物質工学専攻
ウェブサイト http://www.ach.nitech.ac.jp/~chemeng/kakou/hori/toppage/index.html
キーワード 微生物付着、バイオフィルム、細菌ナノファイバー、接着蛋白質、廃水処理、排ガス処理、界面微生物工学、微生物変換、固定化、二相系、エマルジョン、バイオレメディエーション、微生物細胞、感染症、ファウリング、グリーストラップ
主たる研究テーマ
  1. 微生物付着のメカニズム解明と制御
  2. 細菌の接着ナノファイバー/接着蛋白質の構造と機能解析
  3. バイオフィルムによる廃水処理および水浄化
  4. メタプロテオミックスによる微生物群の機能解析と応用
  5. 液/液界面における微生物変換系の構築

研究内容図説

図1 油滴表面に単層吸着する微生物(左、中)
堀研究紹介(図1)

油滴表面に単層吸着(ラングミュア吸着)する炭化水素水酸化細菌。細胞自己凝集はしないが疎水的な細胞表層をもつのが特徴。通常、疎水的だと右のように自己凝集してしまう。こうなると油滴との直接接触が妨げられる。単層吸着をする微生物細胞を利用することで油滴に溶けた高濃度の毒性かつ疎水性基質を、界面で高速変換する技術を確立した。これによって世界ではじめて1リットル・1時間あたり1グラム以上の変換速度を実現した。微生物反応を利用したバイオ化学工業実現への第一歩である。 


 

図2 細菌ナノファイバーによる固体表面への細胞の直接固定化
堀研究紹介(図2)

物質輸送が律速となるゲルへの包括固定化のいらない画期的な固定化法の開発に成功(PCT 出願済み)


 

図3.バイオフィルムによる廃水処理の実例(産学連携の成果): 厨房排水処理技術

堀研究紹介

 グリーストラップ中の油(左)がバイオフィルムで分解された(右:発酵による発泡状態)

公表論文・学会発表

  1. 微生物の付着機構;日本接着学会誌46 (2010) 70-75.
  2. Bacterial adhesion: From mechanism to control, Biochem. Eng. J. 48 (2010) 424-434.
  3. 細菌ナノファイバーの構造と細胞付着機構;バイオサイエンスとインダストリー 67 (2009) 409-412.
  4. 粘着性微生物の構造・機能解析の現状;機械の研究, 61, (2009), 783-788.
  5. Identification of biofoulant of membrane bioreactors in soluble microbial products, Water Res. 43 (2009) 4356-4362.
  6. Symbiotic effects of a lipase-secreting bacterium, Burkholderia arboris SL1B1, and aglycerol-assimilating yeast, Candida cylindracea SL1B2, on triacylglycerol degradation, J. Biosci. Biotech. 107, (2009) 401-408.
  7. Drastic change in cell surface hydrophobicity of a new bacterial strain, Pseudomonas sp. TIS1-127, induced by growth temperature and its effects on the toluene-conversion rate, J. Biosci. Biotech. 107, (2009) 250-255.
  8. 付着機構の解明と工学的応用可能性;『バイオフィルムの基礎と制御』エヌ・ティー・エス,(2008) p.65-80.
  9. Rapid conversion of toluene by an Acinetobacter sp. Tol 5 mutant showing monolayer adsorption to oil-water interface, J. Biosci. Biotech. 106, (2008) 226-230.
  10. Monolayer adsorption of a bald mutant of the highly adhesive and hydrophobic bacterium, Acinetobacter sp. Tol 5, to a hydrocarbon surface; Appl. Environ. Microbiol. 74, (2008) 2511-2517.
  11. 微生物の付着に働く粘着性細菌ナノファイバー; ケミカルエンジニヤリング, 53, (2008), 830-835.
  12. 環境をきれいにするタンパク質;『トコトンやさしいタンパク質の本』東京工業大学大学院生命理工学研究科編,日刊工業新聞社,(2007) p.24-25.
  13. Effect of cell appendages on the adhesion property of a highly adhesive bacterium, Acinetobacter sp. Tol 5; Biosci. Biotech. Biochem. 70, (2006) 2635-2640.
  14. 環境汚染物質の微生物分解と無害化;分離技術, 36, (2006) 79-83. 油分解用機能性バイオフィルム
     

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Published by 学会事務局 on 10 3月 2010

【研究部会】2009年度 有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会シンポジウム

印刷用ポスター(PDF)はこちら

日時 2010(平成22)年3月26日(金)午後1時~5時
場所 日本大学会館大講堂(東京都千代田区九段南4-8-24) 
シンポジウム参加費 無料
趣旨 微生物や酵素などの生体触媒を用いた有用物質生産は、アミノ酸、有機酸、アルコールなど親水性の生体関連物質の生産において大きな成果を収めてきた。しかし、疎水性の有用物質や生物には馴染みのないケミカルのバイオプロダクションははかばかしい進展はない。
日本生物工学会有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会は、疎水性の世界におけるバイオプロダクションに資する研究、特に有機溶媒に耐性な微生物や酵素、疎水環境におけるバイオプロセス開発に関する研究を発展させることを目的にしている。本シンポジウムでは、研究部会メンバーの先端的研究を紹介したい。
連絡先 〒739-8530 東広島市鏡山1-3-1
広島大学大学院先端物質科学研究科
加藤 純一    
TEL: 082-424-7757 E-mail:

プログラム

  • 13:00    あいさつ ………加藤 純一(広島大学) 
     
  • 13:10    「疎水性細菌を活用した非水バイオプロセスへの挑戦」
          ………本田 孝祐大竹 久夫(大阪大学)
     
  • 13:40    「油水界面単層吸着微生物の高速物質変換への活用」
          ………堀 克敏(名古屋工業大学)
     
  • 14:10    Rhodococcus属細菌の有機溶媒耐性機構と相互作用の解析」
          ………岩淵 範之(日本大学) 
     
  • 14:50    「有機溶媒耐性酵素を活用した疎水性ケミカルの生産」
          ………吉田 豊和(岐阜大学) 
     
  • 15:20    「有機溶媒耐性大腸菌の溶媒耐性機構と応用」
          ………道久 則之(東洋大学) 
     
  • 15:50    特別講演:「極限微生物の初期、現在、未来
          
    ………掘越 弘毅(海洋研究開発機構) 
     
  • 16:20-16:55 総合討論 
     
  • 17:00-19:00 懇親交流会(日本大学会館大講堂、懇親会参加費5,000円) 

 

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(本多 裕之・大河内 美奈)

氏名 本多 裕之、大河内 美奈
所属 名古屋大学 大学院工学研究科 化学・生物工学専攻
ウェブサイト http://www.nubio.nagoya-u.ac.jp/proc/index.htm

化学プロセスの一部をバイオプロセスで代替することで、省エネルギーで低コストなトータルプロセスを開発するグリーンバイオテクノロジーという視点が注目されている。実際の化学プロセスを考えた場合には、様々な物質を溶解できるという利点から極性が高くて疎水性が低い溶媒、すなわち微生物に対して毒性の高いトルエン、p-キシレン、シクロヘキサンといった有機溶媒が使用されることが多く、これらの溶媒存在下でも活性を示す酵素の探索、有機溶媒存在下で生育可能な菌株の育種が必要不可欠である(図1)。

本多・大河内研究紹介(図1)
図1

高濃度のトルエン中で生育可能な微生物の存在が報告されて以来、微生物の有機溶媒耐性機構に関する研究が進められてきた。Pseudomonas属や大腸菌では有機溶媒耐性機構の一部概要が明らかとなっており、有機溶媒排出ポンプの存在、急速な細胞膜修復機構、細胞膜透過性の低下、細胞膜の硬化、細胞表面の疎水度の低下などの関与が明らかとなっている。さらに、DNAマイクロアレイ解析やプロテオーム解析による網羅解析が進められ、微生物の溶媒耐性機構を解明する研究が行われている。 

我々は、微生物の有機溶媒に対する耐性機構を解析するため、DNAマイクロアレイにより大腸菌の有機溶媒添加後の時系列データの情報解析に基づいた溶媒耐性遺伝子の探索を行った。有機溶媒耐性を獲得した大腸菌の変異株によるDNAマイクロアレイデータは、有機溶媒耐性を誘発する細胞のプログラムの変化をとらえており、耐性を獲得する上で必要な遺伝子や代謝経路について知見が得られるものと考えられる。これまで、marA(既知)、glpCfruAをはじめ、転写因子であるpurR、ホスホトランスフェラーゼシステムのmanXYZ、糖代謝に関与するレギュレーターであるcrpが有機溶媒耐性に関連する遺伝子として探索した(図2,3)。

 本多・河内研究紹介(図2)
図2

本多・大河内研究紹介(図3)
図3

また、高発現した遺伝子群にストレス応答たんぱく質がみられたことから、分子シャペロンを用いた耐性化を検討した。超好熱性古細菌由来の分子シャペロンであるプレフォルディンの導入により、耐性の向上を確認した(図4)。

本多・大河内研究紹介(図4)
図4

細胞内のタンパク質の発現量は多くの転写因子によって制御されており、代謝調節機構などについては、未解明な点が多い。今後、細胞応答に関する機構を解析する新たなツールを開発していくことで、より戦略的に各バイオプロセスに適した宿主の創製が可能となるものと期待する。

公表論文・学会発表

  • Okochi M, Kanie K, Kurimoto M, Yohda M, Honda H (2008) Overexpression of prefoldin from the hyperthermophilic archaeum Pyrococcus horikoshii OT3 endowed Escherichia coli with organic solvent tolerance. Appl. Microbiol. Biotechnol., 79, 443-449.
  • Okochi M, Kurimoto M, Shimizu K, Honda H (2008) Involvement of global transcriptional regulators related to carbohydrate metabolism on organic solvent tolerance in Escherichia coli. J. Biosci. Bioeng. 105(4), 389-394.
  • Okochi M, Kurimoto M, Shimizu K, Honda H (2007) Increase of Organic Solvent Tolerance by Overexpression of manXYZ in Escherichia coli. Appl. Microbiol. Biotechnol. 3:1394-1399.
  • Shimizu K, Hayashi S, Doukyu N, Kobayashi T, Honda H (2005) Time-course data analysis of gene expression profiles reveals purr regulon concerns in organic solvent tolerance in Escherichia coli. J. Biosci. Bioeng. 99:72–74.
  • Shimizu K, Hayashi S, Kako T, Suzuki M, Tsukagoshi N, Doukyu N, Kobayashi T, Honda H (2005b) Discovery of glpC, an organic solvent tolerance-related gene in Escherichia coli using gene expression profiles from DNA microarrays. Appl. Environ. Microbiol. 71:1093–1096.
  • Hayashi S, Aono R, Hanai T, Mori H, Kobayashi T, Honda H (2003) Analysis of organic solvent tolerance in Escherichia coli using gene expression profiles from DNA microarrays. J. Biosci. Bioeng. 95:379–383.
     

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(道久 則之)

氏名 道久 則之
所属 東洋大学 生命科学部、東洋大学 バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター

トルエンやキシレンなどの有機溶媒は、微生物にとって猛毒であると考えられてきた。しかし、このような有機溶媒を大量に含む培地においても生育する微生物が、井上と掘越によって報告された(Nature, 338, 264-266 (1989))。この報告が発端となり、現在では、国内外の様々な研究グループが、有機溶媒耐性微生物の研究を行っている。 

有機溶媒耐性微生物は、基質を有機溶媒に溶解した非水反応系へ用いることができるため、溶媒存在下における変換反応の効率化が期待されている。また、疎水性有機化合物による環境汚染や石油の脱硫などのバイオレメディエーションへの応用も期待されている。一方、有機溶媒耐性酵素は、有機溶媒存在下における有用物質生産に有用である。有機溶媒中では加水分解酵素を用いると、加水分解の逆反応である縮合反応側へ反応の平衡がシフトする。このため、プロテアーゼによるペプチド合成やリパーゼによるトリグリセリドなどの合成や転移反応を有機溶媒存在下で実施する応用がなされている。しかし、有機溶媒存在下では微生物や酵素などの生体触媒は不安定であり、容易に失活する生体触媒も少なくない。そこで、このような有機溶媒存在下における物質生産には有機溶媒耐性の生体触媒が望まれている。 

当研究室では、有機溶媒耐性細菌を用いて疎水性有機化合物を有機溶媒に溶解し微生物培養液に重層した二相反応系を用いた効率的な物質生産法の開発を試みている。これまでに、コレステロールの酸化やステロイドホルモン前駆体の生産、青色色素のインジゴ生産などについて解析を行っている。また、細菌の有機溶媒耐性機構を調べるためのモデル微生物として大腸菌を用いて有機溶媒耐性機構の解析も行っている。さらに、有機溶媒耐性細菌から有機溶媒耐性のコレステロールオキシダーゼやコレステロールエステラーゼ、アミラーゼを見出し、解析を行っている。

公表論文

  • Doukyu N and Ogino H. Organic solvent-tolerant enzymes. Biochem. Eng. J. 48: 270-282 (2010)
  • Doukyu N, Shibata K, Ogino H , Sagermann M. Cloning, sequence analysis, and expression of a gene encoding Chromobacterium sp. DS-1 cholesterol oxidase. 82:479-490. Appl. Microbiol. Biotechnol. (2009)
  • Doukyu N, Yamagishi W, Kuwahara H, Ogino H, Furuki N. Purification and characterization of a maltooligosaccharide-forming amylase that improves product selectivity in water-miscible organic solvents, from dimethylsulfoxide-tolerant Brachybacterium sp. strain LB25.Extremophiles. 11:781-788(2007)
  • Takeda Y, Aono R, Doukyu N. Purification, characterization, and molecular cloning of organic-solvent-tolerant cholesterol esterase from cyclohexane-tolerant Burkholderia cepacia strain ST-200. Extremophiles. 10:269-77.(2006)

 

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(長澤 透・吉田 豊和・満倉 浩一)

氏名 長澤 透・吉田 豊和・満倉 浩一
所属 岐阜大学 工学部生命工学科

自然界には未知の微生物が数多く潜在しており、新しい機能を持つ微生物(あるいは酵素)を発見できる可能性がある。微生物の新しい反応を探索し、その反応を担う酵素の触媒能力を高め、微生物反応を活用した「ものつくり」手法の開発を目指している。酵素反応や触媒機能を有機化学、酵素工学、遺伝子工学的手法を駆使して基礎的に解析するとともに、化成品・医薬品や機能性素材などの合成に応用する研究を展開している。最近の主な研究内容は以下に示すものである。

  1. 生体触媒の化学工業プロセスへの導入:環境適応型・省エネ型バイオプロセスと化学合成との組合せによる物質生産プロセスの構築
    • ニトリル分解微生物を用いた有用アミド・酸類の生産
       …ニトリルヒドラターゼおよびニトリラーゼの応用研究 
    • 微生物触媒による芳香族化合物の官能基変換    
       …含窒素複素環化合物の位置特異的水酸化    
       …芳香族化合物メチル基の選択的酸化  
  2. 新しい炭酸固定反応の探索とその応用
    • 炭酸固定反応を効率的に触媒する新規脱炭酸酵素群の発見 
    • 炭酸固定機能の特性解析と応用   
  3. 微生物を用いた新素材の生産
    • 微生物によるe-ポリ-L-リジン生産:生合成・分解系の相関解明 
    • 微生物変換による機能性ポリマーユニットの合成 
    • アダマンタン誘導体の位置選択的水酸化  
  4. 生体触媒を用いた再生可能な余剰天然資源の有効利用
    • オイゲノール、イソオイゲノール、ニコチンなどの微生物変換 

公表論文・学会発表

  • Regioselective carboxylation of 1,3-dihydroxybenzene by 2,6-dihydroxybenzoate decarboxylase of Pandoraea sp. 12B-2, Appl. Microbiol. Biotechnol., 73, 95–102 (2006)
  • Biological function of the pld gene product that degades e-poly-L-lysine in Streptomyces albulus, Appl. Microbiol. Biotechnol., 72, 173–181 (2006)
  • Biotransformation of isoeugenol to vanillin by Pseudomonas putida IE27 cells, Appl. Microbiol. Biotechnol., 73, 1225–1230 (2007)
  • Vanillin production using Escherichia coli cells over-expressing isoeugenol monooxygenase of Pseudomonas putida IE27, Biotechnol. Lett., 30, 665–670 (2008)
  • シアノヒドリンに作用するニトリラーゼの特性,平成20年度日本生物工学会大会、講演要旨集2Fp04
  • Fusarium属カビのニトリラーゼの分子特性解析,平成20年度に本生物工学会、講演要旨集2Fp05
  • Bioconversion of 2,6-dimethylpyridine to 6-methylpicoinic acid by Exophiala dermatitidis (Kano) de Hoog DA5501 cells grown on n-dodecane, Appl. Microbiol. Biotechnol., in press.
  • Regioselective carboxylation of catechnol by 3,4-dihydroxybenzoate decarboxyase of Enterobacter cloacae P241, Biotechnol. Lett., in press.

 

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(川口 秀夫)

氏名川口 秀夫 
所属東京大学大学院 工学系研究科 フロンティアエネルギー開発工学(JAPEX)寄付講座 

非在来型資源である重質油の生産および利用に関する環境調和型技術開発として、有機溶媒存在下でのバイオプロセスに関する研究を行っています。

  • 重質油成分の選択的改質を想定した親油性・溶媒耐性生体触媒の開発
    重質油には不純物としてDibenzothiophene (DBT)等の有機硫黄化合物とCarbazole等の有機窒素化合物が、質量換算で最大8%と数%それぞれ含まれています。燃焼させると酸性雨や大気汚染の原因物質となるSOxやNOxを発生するため、燃料油の生産工程ではこれら不純物を除去する“改質”による精製を行います。現在工業的に利用されている水素化脱硫法は原油に金属触媒と水素を接触させて脱硫を行う工程ですが、高温・高圧の反応条件や、多量の水素消費、非選択的反応による副生物(CO2等)の生成を伴うため、より経済的で低環境負荷の改質技術が求められています。
    そこで本研究では、水素化脱硫に代わる新たな改質プロセスの開発を目的に、親油性・溶媒耐性微生物を宿主とする微生物触媒の利用を検討しています(図1)。ある種の微生物ではDBT等の有機硫黄化合物から選択的にS原子を除去する代謝が知られており、選択的脱改質への応用が期待されています(図2)。我々は、自然界からの微生物改質に関与する有用遺伝子(群)の取得に取り組むと共に、有用遺伝子を導入するための触媒宿主の開発と機能解析を行っています。

川口研究紹介(図1)
図1 新規微生物触媒の利用による重質油の環境調和型改質へのアプローチ

 川口研究紹介(図2)
図2 微生物によるDBTの選択的脱硫反応

 

  • SADG法における生産水再利用率向上に向けたバイオプロセスの検討
    オイルサンド・重質油等の非在来型石油資源の可採資源量は1~3 兆バレルと推定され、在来型石油の資源量に匹敵するため、その資源利用に関する技術開発が望まれています。オイルサンドからの重質油生産工程では、1リットルの油を生産するのに3リットル以上の水を必要とするため水資源の再利用が必須ですが、プロセス水の繰り返し利用による水質低下が再利用率低下の要因として問題となっています。
    本研究では、オイルサンドの油層内回収法のひとつであるSAGD法におけるプロセス水再利用率向上に関する技術開発を目的に、微生物による浄化能の応用を検討しています。
    カナダにあるJACOS(Japan Canada Oil Sands Limited)が所有するSAGDプラントから油層からの生産水およびプロセス水を採取し、その化学的組成を解析すると共に、微生物による浄化技術の適応可能性およびその反応機構の解析を行っています(図3)。プロセス水の水質改善(可溶化、沈澱、有機物の分解など)により再利用率を改善することで、環境負荷の少ない重質油開発技術としての応用が期待されます。
     

 川口研究紹介(図3)
図3 微生物浄化作用を応用したSAGD法プロセス水再利用率の改善

公表論文・学会発表

  • 【公表論文】
    川口 秀夫(2007)地下微生物圏へのアプローチ ―石油と微生物の関わり―, 生物工学会誌 85(12):550.
     
  • 【学会発表】
    1. 「SAGD法におけるプロセス水の化学的分析と微生物浄化技術利用の検証」(2010)
      …○李 征国、川口 秀夫、増田 昌敬、佐藤 光三、今里 昌幸、石油技術協会 平成22年度春季講演会
    2. 「有機溶媒耐性菌Rhodococcus opacus B-4の機能改変による重質油の選択的脱硫触媒としての応用」(2010)  …○川口 秀夫、小林 肇、佐藤 光三、日本農芸化学会 2010年度大会
    3. 「原油浸潤土壌からのdibenzothiopheneおよびcarbazole分解性菌の単離・同定」(2009)
      …○川口 秀夫、佐藤 光三、日本農芸化学会 2009年度大会、大会要旨集 p.329

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会- 構成員研究紹介(岩淵 範之)

氏名 岩淵 範之
所属 日本大学 生物資源科学部 応用生物科学科
ウェブサイト http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~molmicro/index.html

Rhodococcus属細菌は、石油、塩素系有機溶媒などの難分解性化合物に対する資化能力をもつことに加え、アクリルアミドや有用酵素群、あるいは細胞外多糖を初めとした機能性バイオポリマーなどの生産菌であることが知られている。それゆえ、産業的に重要な菌群として位置づけられており、低エネルギー化や環境負荷を削減できるバイオプロセスによる環境浄化・物質生産への応用が期待されている。このバイオプロセスを考える場合、有機溶媒を含む特殊な環境での微生物と有機溶媒との相互作用の理解が重要となる。

上述した相互作用の解析は微生物の有機溶媒耐性獲得機構を知る手掛かりとなる。これまで、グラム陰性菌の大腸菌やPseudomonas属細菌を中心に遺伝生化学的な研究が行われ、細胞表層構造の変化やefflux pump、ベシクルの形成などの耐性機構が提案されている。一方で、グラム陽性菌においては、炭化水素分解遺伝子などに関する遺伝性化学的研究は進んできたが、有機溶媒耐性に関した研究はそう多くない。このことは、一般にグラム陽性菌は陰性菌に比べ有機溶媒耐性レベルが低いと考えられていることに起因していると予想される。しかしながら、上述したようにRhodococcus属細菌は有機溶媒存在下での利用価値が高いことから、同菌の有機溶媒耐性に関する知見の蓄積が求められている。

Rhodococcus属細菌は、土壌や海洋などにありふれて存在するグラム陽性で、高G+C含量のコリネ型細菌の一種であり、コロニー形態変化の激しい細菌として知られている。このことは、自然環境中から単離されるものの多くはラフ型のコロニー形態を示すが、継代培養中にラフ→ムコイドあるいはムコイド→ラフなどのコロニー形態変化が頻繁に観察されることからも容易に伺える。このコロニー形態変化には、細胞外多糖(EPS)の生産が深く関与しており、微生物と外界との相互作用を規定する細微表面特性に大きく影響を与えることから、溶媒機構を考える上でも重要な因子となる。

本研究部会では、R. rhodochrousのコロニー形態変化によるEPS生産量の違いとそれに伴う細胞表面特性の違いが同菌の有機溶媒耐性に深く関与している事例およびR. erythropolis PR4株のアルカンの炭素数の違いによる細胞と有機溶媒の相互作用の変化を通じてRhodococcus属細菌の有機溶媒の耐性機構と相互作用を考えてみたい。
 

EPSの生産による有機溶媒耐性

R. rhodochrous S-2株は、100,000 ppmの石油存在下でも石油を乳化しながら生育できる高濃度石油耐性・石油分解菌として見出され、その後同菌の耐性機構が検討された。同一菌株由来のコロニー形態変異株であるS-2株(ムコイド型菌)、R-1、R-2株(ラフ型菌)を用いて、石油存在下での生育を検討したところ、R-1、R-2株の生育は著しく抑制された。また、変異原処理、遺伝子操作を用いてS-2株より取得したラフ型菌株群の生育も同様に抑制され、ラフ型菌から同様の処理にて単離されたムコイド型菌は耐性を有したことから、コロニー形態と溶媒耐性に相関があることが示唆された。一方で、これらラフ型菌の培養にS-2株由来のEPS (S-2 EPS)を投与すると石油存在下での生育は著しく促進された。このことから、S-2 EPSには溶媒感受性菌に対して耐性能を付与する機能があることが示唆された。

このメカニズムを検討するため、細胞表面特性および有機溶媒との親和性を検討したところ、概してムコイド型菌は親水的な表面をもち有機溶媒に対する親和性が低く、溶媒耐性能が高かったが、ラフ型菌は疎水的な表面をもち、有機溶媒に対する親和性が低く、溶媒耐性能は低かった。一方で、ラフ型菌にS-2 EPSを投与すると、有機溶媒への親和性は減少し、耐性能が上昇した。

以上のことから、S-2 EPSは細胞と有機溶媒の疎水性相互作用を調節し、溶媒感受性菌に耐性能を付与していることが示唆された。

R. erythropolis PR4株のアルカンとの相互作用について

PR4株は分岐アルカンの一種であるプリスタン分解菌として海水から単離されたムコイド型菌である。われわれは同菌の溶媒耐性機構を検討する過程で、同菌とアルカンとの相互作用が極めて特徴的であることを見出した。すなわち、培地/アルカン二層培養系において、添加するアルカンの炭素数によって粒子表面に吸着する「吸着型」あるいはアルカン粒子内に転移する「転移型」というようにアルカンとの相互作用を変化させる極めて特徴的な挙動を示す株であることを示した。これら特徴的な現象とEPSとの関連性を検討するため、同菌の生産する2種類のEPSの化学構造を明らかにしたが、EPS生産量が低下した変異株も親株と同様の性質を示したことから、同菌にはEPSを介さない新たな耐性機構を有すると考えられた。

このことを明らかにするため、転移型の代表としてプリスタン、吸着型の代表としてn-ドデカンを用い、同菌とアルカンとの物理化学的な相互作用を検討した。その結果、プリスタンの添加によって同菌の親油性が上昇し、界面ギブスエネルギーが減少することで、アルカン表面に対する吸着力が増大 し、結果として細胞がアルカン相に転移することが示唆された。続いて、これらの相互作用に関与する因子を分子レベルで特定するため、プロテオーム解析を行った。その結果、転移型条件では、シャペロニンの一種であるGroEL2が高発現していた。その後の遺伝子レベル、タンパク質レベルの解析により、GroEL2がPR4株のアルカンへの転移に深く関与していることが明らかとなった。また、PR4株はgroEL2遺伝子の導入により、PR4株の生育できるアルカンの種類が多くなり、それとともに転移できるアルカンの種類も多くなった。さらにこの傾向は他のRhodococcus属細菌に導入した場合でも確認されたことから、GroEL2はアルカンの転移だけでなくアルカン耐性にも関与していることが示唆された。
 

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Published by 部会:有機溶媒耐性微生物利用技術 on 10 3月 2010

有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会 – 構成員研究紹介(加藤 純一)

氏名 加藤 純一
所属 広島大学大学院 先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻

有機溶媒耐性細菌を活用した疎水性ケミカルの生産

  • 不活性炭素の水酸化
    不活性炭素への酸素の付加は合成有機化学において極めて重要な反応である。酸素付加の位置特異性、立体構造特異性、それに導入する酸素の数の制御(例えば、水酸基をいくつ導入するか等)は重要なポイントであるが、合成化学的にはそれら特異性を確保するのは困難な場合がある。一方、生体触媒反応は独特で厳密な反応特異性を示し、合成化学的には困難な反応にも対応できる場合が多い。しかし、不活性炭素の酸化反応には還元力の供給が必要であることからしばしばこの酸化反応は増殖連動型であるのに対し、原料や生産物の疎水性ケミカルは高い生物毒性を示すものが多く、こうしたバイオプロセス開発の障壁になっている。我々は、疎水ケミカルに強い耐性を示す有機溶媒耐性細菌を宿主とした生体触媒と有機相-水相から成る二相反応系を活用して、疎水性ケミカル生産のための酸化バイオプロセスの基盤技術開発を行っている。

     

    Pseudomonas putida T57株は活性汚泥から単離した菌株で、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素が飽和濃度存在する条件でも生育可能な有機溶媒耐性細菌である。また、トルエンジオキシゲナーゼ経路(下図)を有し、トルエンを唯一炭素源として資化することができる。我々は、T57株と、この株が有するトルエンジオキシゲナーゼ経路を活用し、芳香族炭化水素を原料として有用フェノール化合物およびカテコール化合物を生産する生体触媒を構築している。下図の(II)の

研究紹介(図)

反応を欠失させたT57株の変異株はフェノール化合物の生産、(III)の反応を欠失させた変異株はカテコール化合物の生産の生体触媒として活用できる。構築した生体触媒と培養液(水相):デカノール(有機相)=1:1の二相反応系を組み合わせることにより、10g/L以上のフェノール化合物およびカテコール化合物の生産に成功している。
 

  • 有機溶媒耐性細菌を活用するブタノール生産
    ブタノールは強い生物毒性を有する。アセトン-ブタノール生産菌で有名なClostridium acetobutylicumでさえ最大20gブタノール/L程度の耐性しか有しておらず、その濃度以上のブタノール生産は無理である。さらに高いブタノール生産濃度を達成するためには、ブタノール生産の生体触媒の宿主としての高いブタノール耐性を有する微生物の単離が鍵となる。我々は、タイ・チュラロンコン大学/マヒドン大学との共同研究を通じ、30gブタノール/L以上の耐性を有するBacillus 属細菌およびExiguobacterium属細菌の単離に成功している。今後はこれらブタノール耐性細菌にC. acetobutylucum由来のブタノール生成系遺伝子群を導入し、高ブタノール生産のための生体触媒を構築し、ブタノール生産に活用することを考えている。

     

    C. acetobutylicumによるブタノール生産でもうひとつ問題になっているのは、C. acetobutylicumを用いるとどうしてもアセトン-ブタノール-エタノールの混合ソルベント発酵になってしまう事である。ブタノール生成系の遺伝子のみを持つ生体触媒を用いればホモブタノール発酵が可能となり、この混合ソルベント発酵の問題も克服できると期待される。

公表論文

  • Faizal, I., et al. Isolation and characterization of solvent-tolerant Pseudomonas putida strain T-57, and its application to biotransformation of toluene to cresol in a two-phase (organic-aqueous) system. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 32:542-547 (2005).
  • Faizal, I., et al. Bioproduction of 3-methylcatechol from toluene in a two-phase (organic-aqueous) system by genetically modified solvent tolerant Pseudomonas putida strain T-57. J. Environ Biotehcnol. 7:39-44 (2007).
  • 加藤 純一 「有機溶媒耐性細菌を利用した疎水性ケミカル生産技術の開発」 バイオサイエンスとインダストリー 68:15-20 (2010).

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Published by 学会事務局 on 09 3月 2010

【研究部会】有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会シンポジウムのご案内

日本生物工学会有機溶媒耐性微生物利用技術研究部会は、2010年3月26日(金)に、シンポジウム「疎水性の世界でのバイオプロダクションを目指して」を開催いたします。⇒詳しくはこちらから

日時:2010年3月26日(金)
場所:日本大学会館大講堂(東京都千代田区九段南4-8-24)
 

多くの皆様のご参加をお待ちしております。

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Published by 学会事務局 on 06 10月 2008

乳酸菌・腸内細菌工学研究部会 – これまでの活動

  • 2011年度

平成23年度勉強会〈参加者限定なし・オープン〉(2011/9/28)
2011年度 乳酸菌・腸内細菌工学研究部会 講演会(中止)

  • 2010年度

日本乳酸菌学会設立20周年記念シンポジウム(2010/11/19-20)
2010年度 乳酸菌・腸内細菌工学研究部会 講演会(2010/5/14-15)

 

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